磯間浦安神社

  
  
磯間

『田辺町誌』(昭和五年)に曰わく、
 磯間浦 大字磯間の海浜をいふ。扇ヶ浜に接続し東は神子浜の六本鳥居の浜(神楽神社)に隣る。扇ヶ浜との境に砂岩から成る小丘があって小松島といふ。その麓は三壺崎といふ。三壺崎は目良碧齋の名づけたもので、碧齋は明治初年海水浴の利を唱導し、此の地を浴場に適常なりとして碑を立てゝ宣傳した。以来、海水浴場として知らる。・・・此の磯間浦は湾内の神島、畠島、それから瀬戸牛島の山々を望み風景極めて佳、古歌が多い。

 扇ヶ浜と磯間浦は三壺崎で分かたれ、かつては文里の浜へと続いていました。かつての浜は埋立てられ、現在はこの浦安神社周辺にしか砂浜は残されていませんが、この濱は三壺崎から防波堤に向けて後に形成された浜で、扇ヶ浜の一部のようになっています。

 
 
磯間・神島を詠んだ歌

神島や 磯間の浦に あまのかる 藻にすむ虫の 身をうらみつ  順徳院

梓弓 磯間の浦に ひく網の めにかけながら あはぬ君かな  参議 定家

よるべなき 磯間の浦の 磯波に なれてもぬるゝ 海士の袖かな   従三位 家衡

夕波の かけてそこふる 神島や 磯間の浦に 衣かたしき  宮内卿 家隆

                                            『田辺町誌』より抜粋
  
  
磯間浦安神社
 

写真裏書

(八)湊村大字磯間 夷神社
湊村大字磯間浦(歌の名所なり)
夷神社(遠望の(イ)は鉛山岬等、(ロ)は神島の密林)
 小祠なれど絶景の地なり、総て漁民は日夜波涛の上を板一枚で奮戦する者故、吉凶とも夷神社に報賽して漁利を祈るなり。然るに本県はこれすら悉く滅却、海浜の夷神社残存せる此浜に僅かに四社しかなく、他には悉く遠方の市街、また陸上の村落の神社に併さる。故に漁民等帰嚮する所を失ひ、奸譎の徒これに乗じ妖狐、魑魅、死霊等を拝する淫祠を立て大はやり、風俗を乱すこと甚し。
 昨年夏、日高郡御坊町にて漁民等、町民・村民と大騒闘せしも、合祀して夷子神社を潰されし遺恨なり。
神島を田辺近き文里の浜より遠望す
此島に種々珍奇の生物多し。先月伐採の所を熊楠抗議し、村吏をして買ひ戻さしめたり。(南方二書九、一〇頁及び一五頁)
 
    
   
  神島
 
 神島は新庄町鳥ノ巣の沖に浮かぶ3ヘクタールばかりの島で、〝おやま″〝こやま″の二島からなり、全島が照葉樹林で覆われています。古くから神島神社の社叢として付近の人々から大切に保全されてきました。明治44(1911)年に売却されようとしたとき、熊楠が神島の重要性を強調し、保全活動を展開しました。この運動は村民(当時は新庄村)の協力を得て、昭和5(1930)年に県指定の天然記念物に、さらに昭和10年に国の天然記念物に指定されました。
 この島を特徴づける植物として、亜熱帯性植物のハカマカズラ(マメ科)・キシュウスゲ(カヤツリグサ科)・タキキビ(イネ科)・バクチノキ(バラ科)等の大群落や、ウラジロガシ(ブナ科)・エゾエノキ(ニレ科)など普通の海岸林内では見ることのできない内陸山地性の樹種の生育などがあげられます。しかし、これらの植物は特に神島に限らず、田辺湾周辺の豊かな海岸沿いの森で見られました。熊楠は神島が国の天然記念物に指定された後、こう言っています。
 「この島の草木を天然記念物に申請したのも、この島になんたる特異の珍草珍木あってのことにあらず。田辺湾固有の植物は、いまや白浜辺の急変で多く全滅し、また全滅に近づきおる。しかるに、この島には一通り田辺湾地方の植物を保存しあるから、後日までも保存し続けて、むかしこの辺固有の植物は大抵こんな物であったと知らせたいからのことである。」(「新庄村の合併について」牟婁新聞、昭和11(1936)年8月23日)

 神島には、天皇行幸を記念して

 一枝も こころして吹け 沖つ風 わが天皇の めでましし森ぞ


と詠んだ歌碑が建てられています。
 神島への上陸は禁止されていますが、現在も、浦安神社からは堤防越しに神島を見ることができます。

 
 
   
  写真裏書

十六 神島を田辺近き文里の浜より遠望す
此島に種々珍異の生物多し。先月伐採の所を熊楠抗議し、村吏をして買ひ戻さしめたり。(南方二書九、一〇頁及び一五頁)


 この写真(絵はがき)は浦安神社から文里湾に近い文里の浜で撮られたものです。今は文里の浜は埋め立てられ、当時の面影はありません。

 

磯間浦安神社前の堤防から神島を望む
   
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