残響の熊野 PartU
『熊楠がすれ違った風景の現在(いま)』に寄せて
ここ数年で田辺の風景は大きく変化しました。
毎日何気なく見ていた風景も、
取り壊されて初めてその価値に気づくことがあります。
次世代に残したい田辺の風景、
それは南方熊楠ゆかりの風景でもあります。
高山寺の曽我部大剛さんが選び、
日本画家の故牛尾武さんが描いた作品集、
これが『熊楠がすれ違った風景の現在(いま)』です。
曽我部さんを先頭に、
三人で田辺の街を歩いた日々が懐かしくよみがえります。
私たちはノスタルジーの向こうに、
昭和の暮らしの息遣いや、
城下町の賑わいや、
熊野詣の人々の残像を感じていました。
牛尾武さんの筆は、
現在の風景を素材にしながら、
この街を流れた、
永遠の時間を捉えていたように思います。
残念ながらこれらの作品が、
牛尾武さんが田辺を描いた最後のものになりました。
作品をじっと見ていると、
さまざまな時代の田辺を旅することができます。
そこには幼い頃の自分や、
懐かしい人が歩いていそうな気がします。
想像の翼を広げて、
豊かな旅をお楽しみください。
多田稔子
南方熊楠顕彰会常任理事
(一社)田辺市熊野ツーリズムビューロー会長
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